2009年3月9日月曜日

博物館とフィンランドの教育(その2)

フィンランドの教育の特徴はいろいろありますが,なんといっても「社会構成主義」を取り入れていることが,知識科学を専門とする私にとっては最大の特徴です.漢字だけ見て,「社会主義」に関係しているのではないかと思われる方もいるでしょう.でもまったく関係ありません.また「構成主義」という言葉もあり,Wikipediaなどでは混同されています.しかし社会構成主義はむしろ「ポスト構成主義」であり,両者はまったく異なる考え方に基づいていると,私は解釈しています.つまり構成主義が「個人」あるいは「個人の知識」という考え方に基づいているのに対して,社会構成主義は個人あるいは個人の知識などというものはなく,これらは社会的な対話を通じて形成されるという考え方に依拠しています.
そして社会構成主義では「言葉」によって現実が作られると考えます.科学的知識も言葉によって作られるのです.言葉は文化に依存します.科学的知識は文化に依存しない普遍的な事実であるように考えられがちですが,科学的知識も,科学者というコミュニティの中で通用する専門用語によって形成された,偏ったものであることが社会構成主義に基づく研究により明らかにされています.
このような社会構成主義に基づくフィンランドの教育では,社会的な対話が重視されます.先生と生徒,あるいは生徒同士の対話だけでなく,先生と保護者,生徒と保護者の対話も含まれます.さらに,生徒と社会の対話も重要です.新聞やインターネット,書籍,メディアなどを通じて,生徒は社会と対話しながら知識を形成していきます.フィンランドの教育では,生徒に対話の仕方を教えていると言っても過言ではありません.
また社会構成主義では先述したように,普遍的な知識あるいは事実というものはないと考えています.したがってフィンランドの教育でも「正しい知識」が存在しているとは考えません.生徒たちが他者との対話を通じて形成する知識がすべてであり,その知識は生徒たちの対話のレベルや対象の拡大によって変化していくものなのです.
以上のことから,「フィンランドの教育とは対話である」というメタファーが可能だと思います.

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