2009年4月7日火曜日

実証研究に対する疑問

優れた実証研究の5つの基準
  1. coolであること:優れた実証研究は世界をありのままに写し取るもの.研究者は世界を直接体験すべき.したがって研究者は偏見によって観察の目を曇らせてはならず,価値中立的でなければならない.
  2. 状況の統制:ほとんどの実証研究は因果(causal)モデル.優れた実証研究はある「結果」を生み出す「原因」の状況を正確に説明する.そしてこの状況を体系的にコントロールすることにより結果の多様性を確認する.
  3. 数字への変換:数字は言葉と違って価値中立的.したがって実験結果を数字や数式に変換できれば,統計手法を用いてより正確に説明できる.また未来をも予測できる.
  4. 唯一絶対の正解:実証研究では客観的な世界の存在が暗黙の前提.したがって優れた実証研究は混在する様々な考えを,唯一明白な正解に置き換える.
  5. 実践から独立した事実:優れた実証研究は,経験に基づいて,歴史や文化の枠を超えた普遍的な理論を社会に提供する.基礎的で普遍的なプロセスさえ明らかになれば,その知識はどんな状況にも当てはめることができる.
社会構成主義からの反論
  1. 研究者は何らかの理想をもち,何らかの利益のために研究をしている.こうした研究者の理想や利害は,問題を定式化する言葉や対象の記述など,あらゆる研究行為に影響する.価値中立的なレトリックでこれらを覆い隠すのは不誠実.
  2. 因果関係は社会的に構成されたもの.自然に存在するわけではなく,私たちが現象を理解するためのアプリオリな枠組み.コントロールされた研究がコントロールする立場に利益をもたすため,中立的ではない.人間はロボットか?
  3. 数字が言葉や音楽や絵画などよりも世界を正確に写し取るのに適しているわけではない.それはすべて「解釈装置」.しかも数字という解釈装置は本当に大事なものを切り捨てる.
  4. 世界を写し取る唯一の正解など存在しない.どのようなアイデアも社会的に構成されたものであり,科学的・社会的な価値において,可能性と限界の両方を持っている.唯一の正解を求めることは可能性を捨てること.
  5. どれだけデータを収集しても,ある理論が正しいことを証明できない.なぜなら,何がデータとみなされ,どんなデータが信頼されるかは,ある共同体におけるアプリオリな解釈によって決定されるから.抽象的な理論から,どの状況にその理論を当てはめればよいかは導きだせない.

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