2009年5月19日火曜日

カブ間違い

私が考察の対象としている「思いこみ」は、コミュニケーション・エラーを引き起こす「思いこみ」です。具体的手には以下のようなエラーです。

Aさんが大学生だった時のこと。Aさんは経営学部に所属していました。ある日、Aさんのアルバイト仲間の工学部生のBくんが、「親にオートバイを買うっていったら、『オートバイ買うなら、カブにしとけ』って言われたんだ」とAさんに言いました。「えっ?『株』って損するんじゃないの?」とAさんがBくんに言ったところ、Bくんは「損する?はぁっ?」と言ったなり、大爆笑。Bくんの親はオートバイを買うならHONDAのCub(カブ)にしろ、と言っていたのです。

Aさんは「カブ」という名前のオートバイがあることをまったく知りませんでした。したがって、オートバイ→HONDAのCubという連想ができず、オートバイv.s.株(Stock)という理解がなされてしまったのです。

後にAさんに詳しくこの時のことを聞きました。それによると、「オートバイは事故を起こしやすく危険」だから「親は株にしろと言った」、しかも「オートバイの値段は株の値段と同じ位だろう」という推論をしたのだそうです。しかし、「株も金銭的に損をする危険がある」と思い直し、あのような発言をしたのだそうです。

私たちが日常生活において話したり行動したりといった「行為」を行うためには、その前提となる「仮説」が必要です。Aさんの場合であれば「カブ=株券」という「仮説」に基づき、「株って損するんじゃないの?」という発言が出てきたわけです。この「仮説」がBくんの言っている文脈にそぐわなかったために、AさんはBくんの失笑を買ってしまったのです。私はこの「行為」の前提となる「仮説」が「思いこみ」であると考えています。つまり「思いこみ」は「失敗する行為(エラー)」を生み出す事もあれば、「成功する行為」につながることもあります。

しかし、「思いこみ」はエラーが生じてはじめてその存在が意識されます。ですので、Aさんを笑ったBくんも実は「思いこみ」を持っていたのです。それは、「カブ=HONDAのCub」という「仮説」です。しかも、この「仮説」をAさんも共有しているというさらなる「仮説」に基づいて話をしています。Aさんのエラーは、Bくんの「思いこみ」が原因でもあるのです。

このように、コミュニケーション・エラーは両者の「思いこみ」にずれがある時に生じます。「思いこみ」というコミュニケーションの前提をお互いに共有しなければコミュニケーションは成立しません。しかし、「思いこみ」はエラーが生じて初めて認識されるものです。どうすればよいのでしょうか?

このエピソードを例にとると、「カブ」という音声記号には様々な「仮説」をもっています。野菜の蕪、木の切り株、株式の株、体の下部、歌舞伎の歌舞、そしてHONDAのCubなどです。「カブ」という音声記号がこのような様々な「仮説」をもつことを、AさんもしくはBくんが意識できていれば、コミュニケーション・エラーは生じなかったでしょう。つまり、多様な「仮説」の可能性を常に意識しておくことが、コミュニケーション・エラーを防ぐ手だてだと思います。

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