2009年5月19日火曜日

思いこみと生産性

私がそもそも「思いこみ」について研究するようになったきっかけは、以前勤めていた会社での研究です。私は大規模なコンピュータ・システムを開発している企業に勤めていました。コンピュータ・システムの開発に携わる人たちをシステム・エンジニア、すなわちSEと言います。大規模なシステム開発になると多種多様な仕事があり、その役割に応じて様々なSEが分業しています。開発工程に沿っておおざっぱに分けると、企画SE、営業SE、設計SE、開発SE、運用SE、評価SEなどです。こうした様々な仕事を受け持つSEの方々は日々様々な「問題」に直面します。自分だけで解決できない場合には、誰かに「質問」することになります。しかし、各人の知っている人に「質問」するのは限界がありますし、「質問」され、「回答」する人は自分の仕事を中断しなければなりませんので、生産性が落ちてしまいます。そこで私のいた会社ではSEからの「質問」を集中して受け付け「回答」する組織、ヘルプデスクを設置していました。私の研究というのは、このヘルプデスクの効率化を図ることです。
まず私が調べたのは時間的な効率と回答の質における効率の二つの視点から以下の二点について調べました。
(1)質問したSEが指定した回答期日を超える回答の比率
(2)質問したSEによる受け取った回答の評価
調査した質問と回答の数は約1万組です。前者については約8割の質問について指定された回答期日までに回答がなされていました。後者については、「期待以上」「期待通り」「期待以下」の三択でSEに評価してもらい、それぞれおおよそ、3割、5割、2割の比率でした。(1)と(2)の相関関係を調べたところ、回答期日を超えた回答ほど「期待以下」と評価される比率が統計的に有意に高いことが分かりました。
そこで次に、「期待以上」と評価された回答と「期待以下」と評価された回答とについて、その差を調べることにしました。しかし予想に反して、両者の内容には質・量ともに差がありませんでした。両者で分量のばらつきに差があるわけでもなく、どちらも質問に照らし合わせて十分な回答です。ヘルプデスクでは、質問を受けると担当者が1名割り当てられます。この担当者が回答案を作成すると、ヘルプデスクのメンバー全員(約20名)が閲覧できる掲示板に掲載します。ここでメンバー全員のチェックが入り、担当者は最終回答を仕上げます。最終的にはヘルプデスクの責任者がその回答を良しとしなければ、回答は返されません。つまり、回答の質に差が出ることは考えにくいのです。
そこで、問題は「質問」の方にあるのだろうと考えました。まずどんなことを質問しているのか調べたところ、以下の事柄に大別できます。
製品情報:開発しているシステムに利用できるアプリケーションについて
機能要求:
機能実現:
問題対処:

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